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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)317号 判決 1976年3月04日

控訴人 横尾正次郎

被控訴人 村山昌治

被控訴人 小椋一三

右両名訴訟代理人弁護士 栗田恒三郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人らは各自控訴人に対し、金三三万円およびこれに対する昭和三七年三月三日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

控訴人は請求の原因として次のとおり述べた。

「一、控訴人は、控訴人所有の東京都中野区東郷町一七番地(旧表示)所在の建物(以下本件建物という)を、昭和三七年一月か二月頃、被控訴人両名のほか訴外辻本房一郎、同日興商事株式会社、同渡辺学ら以上合計五名の者に対し、代金を二一五万円とし、これを契約成立の一ケ月後までに支払うとの約で売渡す契約を結び、買主らはその頃現金一五二万円を支払い、残り六三万円については、内金三三万円は同額面の約束手形の交付により、また内金三〇万円は、控訴人が地主に対して支払うべき本件建物の敷地の借地権の名義書換料二四万円と、控訴人が住宅金融公庫に対して支払うべき残債務六万円とを、それぞれ被控訴人らが控訴人に代って直接地主および金庫に支払うことによってこれに充てた。

二、しかるに、右の額面三三万円の約束手形は結局不渡りとなったので、この分の代金は後日改めて現金で支払うとの約束で被控訴人らは控訴人から右手形を取上げた。よって右三三万円の支払を求めるものである。」

被控訴代理人は次のとおり述べた。

「一、右主張事実中第一項の事実は認める。

二、同第二項の事実のうち、後日現金で三三万円を支払うことを約したとの点を否認し、その余の事実は認める。

三、(抗弁の一)右不渡手形は、被控訴人らが控訴人に対し、金三三万円以上の金員を支払って買戻したものである。

四、(抗弁の二)かりに被控訴人ら買主が本件売買の残代金として控訴人に対し、三三万円の支払債務を負担したとしても、控訴人が本件未払代金を請求しうる昭和三七年二月か三月より消滅時効が進行を開始し、昭和四七年二月か三月には時効が完成したから、右債務は時効に因って消滅したものである。よって右時効を援用する。」

控訴人は右抗弁について、次のとおり述べた。

「一、抗弁一の被控訴人らが三三万円以上の金員を支払って手形を買戻したとの事実を否認する。

二、抗弁二の主張を争う。控訴人が被控訴人らから本件売買残代金三三万円を請求できると知ったのは、昭和四四年一二月一日である(乙第三号証)から、消滅時効はいまだ完成していない。なお、この点につき、本件売買代金の支払期限を契約成立より一ケ月後であると述べた従前の主張は撤回する。」

右二の主張に対する被控訴代理人の異議は次のとおりである。

「右二の主張中、本件売買代金支払時期についての主張の撤回は、消滅時効の起算日に関しては、先行自白の撤回にあたるから、異議がある。」

証拠<省略>。

理由

一、控訴人が控訴人所有の本件建物を昭和三七年一月か二月頃、被控訴人両名ほか三名(合計五名)に対し、代金二一五万円で売渡し、内金一五二万円はその頃現金で支払われ、残り六三万円のうち三〇万円は、買主たる被控訴人らが控訴人の第三者に対する同額の債務を弁済することによってこれに充て、三三万円は同額面の約束手形をもって支払ったところ、右約束手形が不渡りとなったことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、被控訴代理人は、右手形は被控訴人らが控訴人に対して金三三万円以上を支払って買戻したと主張する。そして当審における被控訴人両名の各本人尋問の結果中には、右主張に添う部分もあるが、これらは当審における控訴本人尋問の結果および弁論の全趣旨にてらし採用できない。右控訴本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、被控訴人らが控訴人に対して昭和三七年二月ないし三月に支払った現金の総額は、一五二万円であって、これはすべて本件売買代金の中間金として支払われたものであることが認められる。そして、他に本件手形の買戻代金が支払われたことを肯認するに足りる別段の証拠はない。よって被控訴人らの本件手形買戻の抗弁は採用できない。

三、そこで次に時効の抗弁について判断する。

被控訴代理人が右三三万円の代金債務の消滅時効は、昭和三七年二月か三月より進行すると主張するのに対して、控訴人は右時効の進行は昭和四四年一二月一日からであると主張する。そこで考えるのに、そもそも消滅時効は、権利を行使することを得る時より進行するのであって(民法一六六条一項参照)、債権者がこれを知ると否とを問わないと解するのが相当である。本件についてこれを見るのに、控訴人が、本件債務の消滅時効の進行の開始日を昭和四四年一二月一日であると主張する根拠は、同人が右三三万円の請求をなしうることをその日に知ったからであるというのである。そうであるとすれば、右は権利を行使することを得る時ではなく、権利行使の可能なことを知った時に他ならないから、これをもって時効進行の起算日とすることはできない。これに対し、被控訴人ら主張の昭和三七年二月か三月というのは、本件売買代金は、契約成立の一ケ月後に支払うという約定であったところ、本件売買契約は、昭和三七年一月か二月に成立したから、その一ケ月後である昭和三七年二月か三月が権利を行使し得る時であるというにある。してみれば、右主張は、それが肯認される限り、法律上理由のあるものということができる。ところで控訴人は右事実を当審における弁論の当初には、認めておきながら、後に至って右自白を撤回すると主張した。しかし、右自白の撤回を肯認するに足りる証拠はないばかりか、かりに右自白の撤回が認められたとしても、その結果、売買代金の支払期限についての約定は認められなくなり、換言すれば、代金債務については期限の定がないことになるから、その場合の権利を行使し得る時とは、契約成立の時即ち昭和三七年一月か二月になるだけのことであって、控訴人主張の昭和四四年一二月一日になるいわれは全くない。

以上のとおりであって、結局、本件売買残代金三三万円は、おそくとも昭和三七年三月より消滅時効が進行し、昭和四七年三月の経過と共に時効によって消滅した旨の被控訴人らの抗弁は理由がある。

四、してみれば、控訴人の本訴請求は理由がないのでこれを棄却した原判決は正当であって本件控訴は理由がない。よって本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 室伏壮一郎 裁判官 小木曽競 深田源次)

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